乙女ゲームの断罪エンド悪役令嬢に転生しました ~超弩級キャラのイケメンシークがお買い上げっ?!~

2. あなたの妻……ですか? ですよね

 彼の姿を目にして、ローゼマリアの顔が紅潮してしまう。

(は、恥ずかしい……彼の顔を正面から見られない……)

 俯くローゼマリアを不審に思ったのか、彼が大股で近づくと顔をのぞきこんでくる。
 あまりに端整な美貌が間近にきて、胸がドキンと高鳴ってしまう。

「あの……なにか?」

 ローゼマリアの額にすっと大きな手を置かれ、恥ずかしさが喉元にまで込み上げてくる。

「熱はないな。顔が赤いようだが、大丈夫か?」

「はい。大丈夫です。ご心配には及びませんわ」

 平静を装うとするローゼマリアの頬を、ジャファルがそっと撫でる。

「昨夜は無茶をさせた。身体は辛くないか?」

 優しさでそう訊いてくれているとはわかっているが、恥ずかしくて言葉を返せなくなってしまう。
 彼は気にしたようすもなく、ローゼマリアの耳朶を指で擦ったり、耳の下を撫でたりする。
 くすぐったくて首を竦めたら、彼が薄い笑いを漏らした。

「あんなに乱れてくれるとは、私も嬉しい限りだ。私とあなたは身体の相性がいいのかもしれんな」

「なにを……」

 昨夜のあられもない痴態を思い出しただけで、穴があったら入りたいくらいの心境になってしまうというのに。
 ジャファルがからかい口調でそんなことを言ってくるものだから、照れ隠しで大声を出してしまう。

「そんなわけがありませんわ! み、乱れるなんてっ……なんて、はしたないことをおっしゃるの! わたくしはミストリア王国屈指のミットフォート公爵家のひとり娘、ローゼマリアですのよ! 失礼な物言いは許しませんわ!」

 いつもの口上を述べてしまうが、ジャファルが楽しそうな顔をするから、ローゼマリアはよけいに恥ずかしくなってしまう。

(くっ……つ、つい、ローゼマリアの大好きな決めせりふを言ってしまったわ。これも悪役令嬢補正なの?)

「アリスの送り込んできた連中が外にいるのですか?」

 ローゼマリアは話を変えようと、カーテンへと視線を向ける。

「ああ。そうだ。昨晩から中庭をウロウロとしている」

 では先ほど散歩していると思った人影は、アリスの手先なのか。
 その執念深さにゾクリと背筋に悪寒が走ったが、ローゼマリアは懸命に平静を装った。

「まあ……執拗ですわね。暇なのかしら? アリスさんは」

 その返しに、ジャファルがくすりと笑う。
 おそらく空元気というか、うわべだけ取り繕っていると見抜いているようだが、気にせずローゼマリアはツンとした表情を向ける。

「元気が出たようでよかった。朝食の用意をしてある。そのあと出発だ」

「わたくし、湯浴みを希望いたします」

 毎日入浴を欠かさないローゼマリアには、二日身体を清めずにいるのは苦痛であった。
 外に出たらまた汗はかくだろうが、それでも入浴したい。
 ローゼマリアのわがままを、ジャファルはすぐに了承してくれた。

「いいだろう。だが時間は限られている。すぐに湯の用意をさせるので、食事も入浴なるべく急いで貰いたい。出発は早ければ早いほどいいものでね」

「わかりましたわ。ありがとうございます」

「あと、これだけは訂正を求める」

 彼が真面目な表情を向けるものだから、ローゼマリアもつい真剣に耳を傾けてしまう。

「なんでしょう?」

 ジャファルが咳ばらいをすると、照れくさそうにこう言った。

「あなたはもうミストリア王国屈指のミットフォート公爵家のひとり娘ローゼマリアではなく、私の妻、ローゼ・アルマド・ラ・シーラーンだ。次からはそう述べてくれ」

「はあ……申し訳ございません。慣れていないもので」

「早く慣れてほしいものだ」

(新しい口上文句を考えないといけないわね。面倒だけど……しかたないわ)

 ローゼマリアの返答に納得したのか、満足気な顔でジャファルが呼び鈴を取り上げた。
 チリンと可愛らしい音を立てると、手に銀の大きなトレイを持った男性がすぐに現われる。

「失礼いたします。朝食をお持ちしました」
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