乙女ゲームの断罪エンド悪役令嬢に転生しました ~超弩級キャラのイケメンシークがお買い上げっ?!~

3.ローゼマリアを迎えたくて頑張った10年

 その日からジャファルは毎日欠かさず勉強し、日々知識を積み重ねていった。
 ときおりミストリア王国主催のパーティに顔を出すが、二度とあの可愛い少女に出会えなかった。

「ミットフォート公爵家のひとり娘、ローゼマリア……か。ローゼ……」

 ジャファルはシーラーン王国に帰国した早々、国力を高め、立派な国王になるため精一杯の努力をした。
 当時は恐ろしい賭け、今は英断とまで言われているダイヤモンド鉱山とエネルギー油田の掘削を含め、取りかかったビジネスというビジネスはすべて成功した。
 シーラーン王国を富豪国と世間に知らしめることができたのは、ジャファルの心を奮い立たせてくれたひとりの少女のおかげである。

 富豪国の猛王、『砂漠の黒い鷹』とまで言われるようになるが、ずっとひとりの少女のことを想って戦っていたのだ。
 十年の月日は、ジャファルにとっては光陰矢のごとしで、あっという間に過ぎていった。
 ローゼマリアに求婚をしようとしたときには、彼女はミストリア王国の次期王妃候補に選ばれてしまっていたのである。

「遅かったか……」

 彼女をひと目見て、それで諦めようと招待された婚約パーティ。
 ずっと心に秘めていた宝物のようなローゼマリアが、わけのわからないことで糾弾されていた。
 ジャファルは彼女を救出するため、すぐに動いたのである。


  §§§


「そうだったのですね。わたくし……その、正直申し上げて、さっぱり記憶が……」

 両親に連れられて赴いたパーティは、大概途中で抜け出して庭園で遊んでいたような気がする。
 ジャファルのような格好いい男性が声をかけてきたら、おしゃべり相手として離さなかったに違いない。

「ファイサル兄さんが亡くなってから、私の心にぽっかりと穴が空いてしまっていた。そこに、あなたという存在がすっぽりと入り込んだのだ」

「そういえば鷹に、お兄さまの名をつけたとおっしゃっておられましたわね」

「そうだ。亡き兄が、私を守ってくれているような気がしてね」

 ローゼマリアは、シーラーン王国の前王の名を知らなかった。
 もし知っていたら、ジャファルが現在の国王だとわかったのかもしれない。

「もっと早く教えてくれてもよかったではないですか。十年前のことを訊いても勘違いだなんておっしゃっるのですもの。酷いですわ」

 ローゼマリアが拗ねたように責めると、ジャファルが苦笑を浮かべる。

「あのときの私は、半人前で人としても男としても、国王としても頼りなく情けなかった。忘れてしまったのならそれでいい。今の私を知ってもらえばいいと思ってね。どさくさまぎれに結婚という流れになってしまったが、私はなんとしてもあなたを娶りたかったのだ」

 では、なぜ彼は取引などと口にしたのだろう?
< 90 / 95 >

この作品をシェア

pagetop