星空ラブソング
「練習したの?」
「はい。手品、練習してて」
「すげえな。
俺も昔、手品練習したことあったけど、不器用だから全然上手くならなくてさ」
飴を指先にもって眺めながら竹田さんは呟くように言った。
そんなエピソードまで聞かせてもらえるとは思いがけない収穫だ。
そしてその時初めて、私の目線の少し下にある、首からさげられた竹田さんの名札の存在に気がついた。
私は今更ながらに名前を告げた。
「4年の沢田です」
「竹田です」
竹田さんは、姿勢を正してペコリと頭をさげるから私も慌ててさげ返した。
「じゃあ、俺、そろそろ戻るね」
「引きとめてしまってすみませんでした」
竹田さんはドアノブに手をかけてこちらを振り向いた。
「手品の練習頑張って。
また、楽しみにしてるよ」
夢見たいなひと時が終わりを告げる。
去り際に竹田さんはもう一度、「ありがとうございます」って今度は何故か敬語に戻って言って、飴を持った方の手をこちらにあげてみせてくれた。
竹田さんが向けてくれた微笑に嬉しくて涙がこぼれそうになった。
泣きそうになっていることに気づかれないよう、私はその場から満面の笑みで小さく手を振り返した。