初恋前夜
 でもさ……それでも、なんかあるでしょうに。
 コウ先輩の脚本、きっと面白いんじゃないのかな、なんていう後輩のひと言とか。
 僕はコウに期待してる、っていう同輩のエールとか。
 いや、ないか。
 そもそも応募作は審査員の五名しか読んでいない。自分から進んでほかの部員に見せることは問題ないのだが、僕は誰にも見せていなかった。
 審査前に感想を聞くのが怖かったのもあるし、正式に採用されればどうせみんな読むんだしといううぬぼれもあった。
 さらにスクロールしていくと、あるコメントに目が留まった。
『明日の講評が楽しみ。』
 その書き込みに対してみんな、そだね、そだねと同意していた。
 講評は明日顧問から一斉に行われる。
 講評内容も気になるが、注目したい点はほかにあった。
 審査員五名で、四対一と票が割れた。
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