初恋前夜
6
 演劇部では次回公演の準備と稽古が始まった。
 応募脚本が採用された一年生部員は、演出の部長や演出補佐の副部長と一緒に役者とやりとりする側に“昇格”した。こうして彼の頭にあった物語世界は、大勢の人間によって目に見える形に昇華されるわけだ。
 そして今回のヒロインは一穂。
 やっぱりというかなんというか、いまうちの部に彼女以上に華のある女子はいない。きれいなだけじゃなく、堂々と演技ができる女優気質の一穂はみんなが一目置いている。
 そんな彼女に、
『すごく好きな世界観。優しさが溢れてた。この物語の大ファンだよ。』
と言わしめた後輩くん。
 僕は彼とは話していない。
 なんでって、あいつはどうもいけ好かないからだ。
 先日あった演劇部全体ミーティングで、顧問から脚本審査にあたった五人の審査員の講評が伝えられた。
 
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