初恋前夜
 後輩くんの書いた脚本は、物語のキャラクターたちが実際の演劇部員ひとりひとりの個性と非常にマッチしていたと。それに、その息遣いが聞こえてきそうなほどキャラが生き生きしていて、演じる部員たちのことを思って描かれていたと。
 とくにヒロインは、ちょっと読んだだけで一穂の演じる姿がありありと想像できたと。
 ――まあ、わたしは独自の世界観を前面に打ち出したコウの作品も面白いと 思って票を投じたがね。ははは。
 最後にダンディーな顧問が渋い声でそう付け加えた。
 これまで講評の解説時に、誰が誰に投票したなんてことは発表されてこなかった。
 それなのに、これはいったい……。
 三度も落ちた僕を憐れんでフォローしてくれたのか。
 だったら頼む。やめてくれ。
 いくら顧問とはいえ、あなたひとりに選ばれたって、同輩先輩の誰からも支持されてないのを後輩同輩先輩みんなに知られるのは悲しすぎるし恥ずかしすぎる。
< 64 / 96 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop