初恋前夜

 …………。

 放課後の、校舎の屋上で。
 僕はひとり、大道具を作っていたはず。
「コウくん、ここにいたんだー」
 真っ白なシャツ。胸の前でちゃんと結んだ赤いリボン。そして品よく着こなした紺のベスト。同じ紺のスカートからは白く長い足がすらりと伸びていて。
 夢で見たゆずき、そして小説に描くゆずきと同じだった。
 僕は震える膝を押さえながらよろよろと立ち上がった。
「あ、あ、あの……」
 なんか、舌がもつれてうまく話せない。
「どしたの?」
「あ、いや、えっと……」
 彼女が頬にかかった髪を小指で耳にかけ直す。
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