初恋前夜
7
 吸い込まれるように屋上の塔屋に入ると、振り返らずに階段を駆け下りた。
 すれ違う女子たちが奇異な目で僕を見る。
 さっきは舌だったもつれが今度は足に伝播したように、途中でよろけてつまずきそうになった。うまく進めない。
 手すりをつかんでなんとか体勢を維持した。
 一段一段踏みしめながらもう一度思考を巡らせる。
 僕の目の前に現れたゆずき――。
 僕の理想の女の子。
 でも彼女は、僕の夢、僕の小説の中の理想――のはず。
 いまは現実世界で、夢じゃない――はず。妄想癖の強い僕だって、さすがに夢と現実の境界くらい認識してる――はず。

 じゃあ、さっきのは?
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