人魚の標本
熱を出したような、ぼうっとした意識の中で耳元で海斗の声が聞こえるような気がする。
「ごめんな朱里、でも、好きだから、好きだから仕方ないんだよ」
首の肉をえぐられたような気がするけれど不思議とあんまり痛くない。
ああ、夢か。きっと夢に違いない、目が覚めたらあやめに説明してもらおう。大丈夫大丈夫、あやめも海斗も孝也もいるんだし。
おかしいな、なにか大切なことを忘れてるような気がするけど。
暗くなっていく視界の隅で話し声がした。
◇
「本当に記憶消えるんですかあ? 朱里あんな泣いちゃってかわいそう」
「大丈夫ですよ、起きたら忘れてるから」
「ふーん、……そういえば先生、どうしてあのときヒトミウオなんて言ったの?」
「ああ、あれはね、人身魚って書くんですよ」