それ以外の方法を僕は知らない





「克真くん」



私の席は窓際の一番後ろにあるので、40人収容サイズの教室のこの位置から呼べば十分に声が届く距離に彼はいる。

後ろ姿を見つめながら、彼の名前を呼ぶ。

けれど、彼は一向に振り向きはしない。



…うーん、今日もダメか。



以前も同じ経験をしたことによって学習能力がそこそこ培われている私は、この距離で彼に振り向いてもらうことを早急に諦めて、席を立ち彼の元へ向かうことにした。




「か、つ、ま、くん」



近づきながら再び名前を呼んでも、彼はやはり気づかない。



そのヘッドホンで、一体どれ程の音量で、何を聴いているのだろう。



それがどうであろうと彼の勝手だけれど、正直な話をすると、用事がある時に名前を呼んでも振り向いてくれないことに関しては私に限らず少しばかり手を焼いているという話を耳にしたこともあるのだ。




周りの音が聴こえないくらいなら、少しくらい音量下げてもいいんじゃない?と思ったりもする。

多分、これを言っても彼は聞いてくれないと思うから言わないでいるけれど。



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