どうして・・

···先輩の言葉


それからの律は、
彩羽に仕事の話や
模型のレストランが完成した時に
レストランへ食事に連れ出したり
ピアノを一緒に弾いたりと
精力的に彩羽に関わりあった。

彩羽は、急な律からの
誘いや行動にタジタジしながら
接していたが
元から建築物に興味もあり
また、大好きなドイツの
街並みや建造物は
彩羽をあきさせることはなく
段々と律からの誘いが
楽しみになっていた。

ただ、自分はドイツが好きなだけで
律に気持ちがあるわけではないと
自分に言い聞かせていた。

おばあちゃまからも
「ずいぶん律と仲良くなってるね。」
と、言われたが
「そんなことないよ。」
と、プンプンして言うと
おばあちゃまと矢島さんは
苦笑いをしていたみたいだが·····

律は、先輩にも彩羽を会わせた。

先輩は
高田 敏也(たかだ としや)さん
33歳 独身
律より背は低いが
がっちりした体にシャープな顔に
メガネをかけたイケメン。

「あなたが、律の?」
と、高田さんに言われて
律の?と思いながら
「日垣 彩羽です。
律がお世話になっています。」
と、言うと
高田と律が顔を合わせて笑うから
「あっ、いやっ、変な意味では
ありませんよ。」
と、慌てて伝える彩羽に
「あなたと付き合っているとき
律は、いつもあなたの事を自慢して
いました。
そんな律が、日本を離れた上に
あなたと別れたと聞いて
正直、びっくりしました。
だけど、あの当時の律の様子が
聞こえてきて
バカな奴だと思いました。
だけど、それは自分自身でわからないと
ダメなんです。
そんなときに律のスランプも耳に
しました。
ただ、デザインが出来ないだけなら
良いと思いましたが
ほっておけなくて
律に連絡したのです。

電話に出た律の声で
状況は把握出来ました。
だから、私は直ぐに日本に呼び戻したのです。
空港で見た律は、俺の知る律では
なかった。
日本に呼んで何をするかは
律次第です。
律は、直ぐにあなたに会いに行き
あなたに見つからないように
何日もあなたを見ていました。
そんな中、律の目に光が戻り
飛鳥建設を辞めて
オファが来ている事務所に行き
事務所を起業したいから
先輩も一緒にやりませんか?
と、言われて
俺も律の力量も知っているし
一緒にやって行きたいと
思ったからお互いに切磋琢磨
することにしました。
あなたを手放したのは律です。
その事で
きっとあなたも沢山傷ついたと
思います。
ですが、律を立ち直らせたのも
また、あなたです。

どうか、律をもう一度みてやって
もらえませんか?
あなたが、そばにいたら
きっと律は、いつまでも
良い仕事をします。
あなたが生き甲斐で
あなたが、大切だから。

私は、それができなかった。

気づいた時は、姿を消していました。
律を俺と一緒にしたくない。
同じ苦しみを味あわせたくない。
ですから、どうかお願いします。」
と、頭を下げる高田さんに
「せん····ぱい···」と、律。

彩羽は、
「律は、良い先輩に巡りあえていたの
ですね。
高田さんは、ご存知がわかりませんが
私は結婚式当日に夫となる人に
逃げられた女です。
律からも捨てられ
夫となるはずの男性にもさられ
恋をすることも
それ以上に進む事も怖いのです。

また·····同じような事が
起きたら、私は自分が
どうなるか、自身がないのです。
ですから、高田さんのお言葉に
添えないか·····と。」
言うと
高田さんも律も悲しげな顔をするから
「あ~、でも
友人として律のそばにいます。」
と、言った。

高田さんは、
「それでも
いままでとは違う。」
と、言い。

私は、律と高田さんの話を
側で聞きながら
律の目がキラキラしていることが
嬉しかった。

あの時の別れを
思い出さない···わけでは····ないが。
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