ニセモノの白い椿【完結】

「私が酔ってるからって、上手くどうにかしようとでも? そんな手に乗るかって」

バカにすんな。
一人で酒飲んでる三十路女でも、そこまで落ちてないんだよ!

「はぁ? どういう意味?」

何故か、言葉が返ってくる。

「あれ、私、声に出してました?」

「ええ。はっきり」

「それはそれは、失礼いたしました。そんなわけなので、放っておいてください!」

そう言うと、思いっきり溜息を吐かれた。

「マスターが困ってるのに気付いてる? 客がどれだけ飲もうと本当なら関係ないけど、ここのマスターいい人だから。女一人で泥酔していたら心配する。俺は、そんなマスターを助けているの。 男みんなが下心あると思わないでもらえるかな?」

なんなの。なんなの?

かなり、相当、腹が立つんですけど。

瞼は重いし、視界は揺れているから、相手の男の顔はよく分からない。
霞む目に逆らうようにじっと見ると、若い男の顔が浮かび上がって来る。
どう考えても年下だ。

「泥酔ってほどじゃない。ちゃんと意識はある。楽しく飲んで、何が悪い!」

年下の分際で、偉そうに!

「木村さん――」

「いいよ、マスター。他のお客さんもいるんだし。この人は俺に任せておいて」

「はい? なんで私があなたの世話にならなきゃならない?」

きぃっとその男を睨みつける。

「すぐ、戻ります。すみません」

「いいよ、いいよ」

あれよあれよという間に、何故か男と向き合っている。

「さてと。楽しい酒が飲みたいんだっけ? だったら、俺が付き合うよ。一人より誰かいた方が楽しいでしょう?」

「え?」

なんか、笑ってる――?

そのにへらとした胡散臭さい笑みに、私は顔をしかめる。

「こういう店で、素性を知らない者同士だからこそ、できる会話もあったりするんですよ?」

肘をついて私の方を向いている。そのしまりのない目が軽い。

こういうこと、慣れている男なのか――。

まあ、いいか。
どうでも。

そもそも自棄で入った店で。すべてを忘れたくて飲んでいたわけだから。
日常あり得ないような状況に身を任せてもいいような気もした。

それに、今の私には、こういう軽いノリの人間の方が楽だ。

「――勝手にすれば」

「じゃあ、勝手にしよう」

男から視線を外し、頬杖をついた。
わずかに氷に溶けて残っていた酒を口にした。
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