ニセモノの白い椿【完結】


看板だけが通りに出ている、あまり目立たない場所で。
それこそ、木村が隠れ家にしているというのも頷ける。

そう考えると、あの時、あのバーに入ったことは奇跡とも思えた。

そこへとたどり着き、下の階へと続く階段を覗く。

ゆっくりと階段を一段一段下りて行く。
この日履いていたパンプスがローヒールだったので、あまり靴音は響かなかった。

あと一段で下り終えるというところで、人の声がした。

このバーは、分かり辛いこともありいつ来ても静かな雰囲気で。
本当に常連さんが愛用しているという店だった。

だから、店に入る前に人の声がしたことに驚く。

地下1階にあたるそのフロアには、このバーしか店は無かったはずだ。
ただ、店の前には広めの踊り場があり、その奥には、倉庫か何かで使っている部屋があるのか扉が一つある。

それだけの場所だったはず――。

階段の影からそっと様子をうかがってみた。

え――?

思わず階段の壁に身を隠してしまった。

木村と、榊さん? そんな場所で、一体何を――。

恐る恐るもう一度身を隠しながら二人を確認する。

壁側にしゃがみ込んだ木村と、その正面に立つ榊さん。
やっぱり、そこにいたのはその二人だった。

「ーーまだ、飲み足りないんですけど。なんで、外に連れ出すんだよ」

「いい加減にしろ。いくらなんでも飲み過ぎだ。人を呼び出したと思ったら、浴びるように飲み続けやがって」


その声に、私は咄嗟に壁に身体を付けた。

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