ニセモノの白い椿【完結】
「おまえとは長い付き合いだ。これまで、おまえがこんな風に酒で何かを紛らわすのを一度たりとて見たことはない。一体、何があった」
「勝手に決めつけんなよ。別に、何もねーわ」
「何もなくて、おまえが俺を呼び出すか。特に俺が結婚してから、おまえから誘って来たことなんてないだろ」
「そんなに久しぶりのことだったら、つべこべ言わずに付き合えよ。楽しく飲みたいだけなんだからさ」
そこで、少しの間があった。
大きく溜息を吐いたのを感じる。おそらくそれは榊さんだ。
「――そんな苦しそうな顔して、何が楽しく飲みたいだ」
前の晩だって、木村はかなり泥酔して帰って来ていた。
一体、何が木村をそうさせているのか。
何か、苦しいことでもあるのか――。
「おまえという人間は、いつも感情を一定に保って、すべてを合理的に考える。いい意味でも悪い意味でも諦めているんだろう。だから、感情が揺らがない。そんなおまえが、酔いつぶれるなんてことして、感情丸出しもいいところだな」
「ごちゃごちゃ、うるさいな。もういい。俺一人で飲むから――」
立ち上がろうとしたのか靴音が響く。でも、それを抑え込むように榊さんの声が突き刺さる。
「理由は、彼女か?」
「……はぁ?」
彼女って――。
「おまえをこんな風にしているのは、生田さんが原因か」
その時、ドクンと胸が鳴った。
咄嗟に、これ以上聞いてはならないと自分自身に警告するけれど、床に足が貼り付いたみたいに動けなかった。