ニセモノの白い椿【完結】
「でも、自分の家のことを考えれば、生田さんを俺のものにしてはいけないと思った。だから、一生自分の気持ちを伝えるつもりはなかった。生田さんに苦労なんてさせたくなかったから」
気付けば私の両頬は木村の手のひらで包まれていて、私は私でバカみたいに涙が溢れて止まらない。
「――でも」
木村がふっと笑う。
「本当の俺は、そんなに出来た男じゃなかったみたいだ。大人の男でもなければ優しい奴でもなくて。結局無理だったんだよ。あなたが幸せになるならその相手が俺じゃなくてもいいなんてそんなキレイ事、全然本心じゃなかった」
ここは、私の部屋の狭い玄関で。ただでさえ狭いのにスーツケースまであって。
でも、すぐ近くに木村がいて私に触れてくれていて。
涙だけじゃなくてありとあらゆる感情までもが溢れて来る。
「ごめんね。俺、生田さんに苦労させることになる。それでも、あなたが欲しい」
真っ直ぐな視線に、ずっとずっと押さえつけて来た想いが決壊する。
「……言ってもいいの? 私、あなたを好きだって言ってもいいの?」
「生田さん……」
木村の目が大きく見開かれた。でも、それはすぐにくしゃくしゃの笑顔に変わる。
「いいよ。言ってよ。たくさん、言って」
涙ももう洪水状態で、鼻水まで出て来て、きっとこの顔はぐしゃぐしゃで。
たまらなくなって目の前の人に腕を投げ出し、きつくその首に巻き付ける。
「好きだよ。すごく、ものすごく。あなたが好き」
しがみつくように抱き付くと、すぐに私の背中に大きな手のひらが回されて強く抱きしめ返してくれた。
「……ねぇ」
しばらくきつく抱きしめ合っていると、木村の声が耳元に届いた。
「俺、いろいろと限界なんだけど」
「え?」
「飛行機の時間まで、あとどれくらいあるの?」
「な、なんでそんなこと」
抱きしめ合ったまま、そんな会話をする私たち。
「もう無理。耐えられない」
「……え、えっ? きゃっ! な、何?」
あっという間に抱き上げられていた。
俗に言う、”お姫様抱っこ”というもので。
「ちょ、ちょっと!」
手足をバタバタとさせるものの、この男、びくともしない。
私を抱きかかえてすたすたと部屋に上がり込んだ。