ニセモノの白い椿【完結】
「木村さんっ!」
木村の腕の中で騒ぎたてる私に一切構うことなく、私を畳の上に横たえた。
「ベッドないの?」
「な、ないけど……って、そうじゃなくて、一体、何する気?」
何を考えているのか、木村が私の脚の上に跨り膝をつく。
私、木村に見下ろされている。押し倒されているとも言う。
「何って? そんな野暮なこと聞かないでくれ。今すぐ、あなたの身体も俺のものにする」
まさか、今からするつもり――?
「いやいやいやいや、落ち着いてよ。あなた、そんなキャラじゃないよね? これまで同じ屋根の下、草食感満載だったじゃないっ!」
迫って来るその身体を、力の限りで手のひらで押さえた。
「泣きながら『すごく好き』なんて言われたら。もうね、これまで我慢の限界超えるほどに我慢してたから、抑えなんてきかないの。諦めて」
「し、仕事! 仕事は? 放り出して来たんでしょう? いくらなんでもまずいって」
突然の怒涛の展開に、身も心もついて行っていない。
つい先月、”一夜限りでもいい”なんて自棄っぱちになっていた女はどこいった。
「仕事? ああ……」
ちっ、と木村が舌打ちする。さすがに、このままにしておくことはできないようだ。
それが社会人として真っ当な判断というもの。
これで、離れて行くかと思いきや、木村は私の上からどこうとしなかった。
え――?
私の脚の上に跨って膝立ちしたまま、何故かネクタイを引き抜く。
そして、ポケットからスマホを取り出し耳に当てていた。
え、ええ――?
「――木村ですが」
片方の手がスマホを持ち、もう片方の手によって木村のジャケットは畳の上に放り投げられ、シャツのボタンが外されて行く。
その仕草に、つい見入ってしまう。
「すみません、融資先との急な打ち合わせが入りまして。ええ、はい。非常に重要な案件ですので、はい、しっかり話、詰めて来ます」
でも、会話が進むほどに広がっていく素肌に、思わず視線を逸らした。
壊れそうなほどに心臓が高鳴る。
この人、誰――?
知らない。知らない。
「――では、そういうことで」
会話が終わると同時に、木村は畳の上にスマホを投げ捨てた。
そして、私の顔に手を添え木村の方へと向けさせられる。射るような目が私を見下ろす。
そんな木村、知らない――。
「――仕事は済んだよ」
熱く滾るような視線が近付くと、すぐさま唇を重ねられた。