ニセモノの白い椿【完結】
「雪野さんの話で思い出したんだけど……。そのうち、雪野さんに会えないかな」
「え? どうして?」
雪野さんとは、改めてお話したいなと思っていた。
「ニューヨークのお土産買って来たの。雪野さんにはニューヨークに行く話していたし、それに、何より今回はいろいろお世話になったし?」
「え? 俺は、土産貰ってないけど?」
木村がすかさず抗議の視線を私に寄せた。
「そ、それはね。木村さんとは、会うことばかり考えていて、お土産とかそういうこと一切頭になかった」
それは本当だ。早く、一刻も早く会いたいとそればかりで、お土産がどうとか、木村のことに関してはそんなことを考える心の余裕は一切なかった。
「……ふーん。まあ、いいけどね。あなた自身が何よりのお土産だ」
納得したのかしていないのか、微妙な表情で私を見る。
「また、そんな馬鹿なことを言って。それより、雪野さん、よろしくお願いします」
「分かったよ。連絡してみる。雪野ちゃんもきっと喜ぶよ」
その言葉に、笑顔で返した。あの、優しい微笑みが目に浮かんだ。
それから食事を済ませレストランを出る。
ビルの大きな窓の向こうの景色に目をやると、雨がやんでいるのに気付いた。
「――あのビル、榊グループの本社ビルだよ」
同じように窓の外を見た木村が、呟く。
その視線をたどると、窓の向こうすぐ傍に、高層ビルが見えた。
「さすがだね。立派なビル」
「そう。天下の榊だからね。まあ、今はこのビルにはあいつはいないんだけどね。創介も、いろいろ大変みたいだけど、相当頑張ってる。俺も頑張らないとな」
それは、自分に言い聞かせるような、そんな言い方だった。
「木村さんも頑張ってるじゃない。今週、大型融資決めて来たんでしょう? 表参道支店、今年度に入って一番の融資額だって聞いたよ?」
部署の違う派遣の私の耳にまで入るほど、支店内で話題になっていた。
「でも、もっと頑張らないとね」
ビルのてっぺんでも見ていたのだろうか、見上げていた視線を私へと戻した。
その目にはいろんな思いが込められている気がしたけれど、そのすべては私には分かりようもない。
「さあ、帰ろうか。今日も、泊まって行くだろ?」
そう言って歩き出すと私の手を取り、身をかがめて私に顔を向けて来た。
「あ――」
「ん?」
私の漏れ出た声に、木村が聞き返すように見つめて来た。
その眼差しが、また胸をチクリと刺す。