ニセモノの白い椿【完結】
ただ付き合うだけなら、何も考えずに幸せを噛みしめられる。
でも、"ただ付き合う"って、何?
木村はこれから家庭を作って、しっかりした人生を歩める人。
じゃあ、私と結婚する――?
そんなこと、望めるはずもない。
図々しいにもほどがある。
私は、一度は誰かの妻だった人間で、一度失敗して、離婚して間もなくて。
木村はまっさらな人間だ。そんな木村に、私のような人間が相手としてご両親の前に出て行ったらどうなるか。
木村も榊さんに、自分の親のことを『頭が固い人間たちだ』と言っていた。
私が何かを言われるのは自業自得なのだから構わない。
でも、木村が責められるのは耐えられない。
だから、私は自然と自分にブレーキをかけてしまおうとしている――。
スマホを取り出し、おもむろに検索する。
自分が働く銀行のホームページを開く。
そこにある幹部一覧。一番トップにある頭取をクリックした。
”木村 司朗”
木村の父親だと分かる程度には、顔が似ていた。
それはそれは輝かしい経歴を持ち、銀行員としてエリートコースを順調に進み頭取の職に就いていた。
その顔写真を見ていられなくて、そしてご立派な挨拶の言葉を最後まで読むことも出来ずにスマホを閉じた。
この人の前に出て行って、いつか、挨拶をする――?
そんなの想像もできない。
きっと、この人にはこの人の期待する木村の未来があって、それにふさわしい伴侶を想像している。
木村のような男なら、どんないい人とだって結婚できる。
じゃあ、だからと言って、私は木村の手を払いのけられたのか――?
答えはノーだ。
好きなのだ。あの腕に抱かれるなら一度きりでも構わないと思ったほどに。
だから、このアパートに突然木村がやって来た日、彼を追い返すなんて選択肢はなかったのだ。
それなら――。
私が、大人の女としての判断をするのなら。