ニセモノの白い椿【完結】
「おまえのせいで、集中力が途切れた。コーヒー飲んで来るっ」
パソコンのディスプレイの文字がまったく頭に入って来ない。
苛立つままに席を立った。
「俺のせいですか? 木村さん、最初から溜息ついていて集中なんかしていなかっ――」
「うるさい!」
不服そうにぶつぶつと零す後輩を一蹴して、ラウンジへとやって来た。
自動販売機で缶コーヒーを買って、椅子に腰掛ける。
プルタブを引いて、缶を口にする。
苦味のある液体が喉を通って行く。
俺は、自分で思っている以上にショックなのかもしれない。
生田さんが、一緒に暮らすことを拒否したこと。
なんとなく、生田さんは頷くものと思っていた。
一か月前までは、一緒に暮らしていたのだ。
それが、恋人という関係になったのだから、尚更頷いてくれると――。
でも、彼女は、酷く困惑した顔をした。
その咄嗟に見せた顔が、俺にはたまらなく、ショックだった。
ラウンジに置かれた中途半端な背丈の観葉植物の横にある窓を見つめる。
窓の向こうには、ビルの群れの間からオレンジ色がかった空が見えた。
生田さんを想う気持ちを無理矢理に押し込めて来た反動で、彼女を手に入れてから自分の中で感情が決壊している状態で。
少しでも、見ていたい。出来る限り近くにいたい。
俺のものだって実感したいと身体中が叫んでいる。
自分がそんな感情に支配されるタイプだとは思っていなかったから、正直自分自身でも手を焼いている。
だからかもしれない。どうしても、生田さんとの温度差を感じてしまう。
もしかしたら生田さんは、俺が思うほど俺といたいとは思っていない――?
そう考えてしまいそうになると、胸がひりついて慌てて否定する。
生田さんも俺を好きだと、確かに言った。
それに、俺の腕の中にいる時の生田さんは、俺を心から求めてくれているように見える。それは、自惚れではないと思えるけれど。
でも、一たび身体を離せば、心までも離れて行くみたいに俺との間に壁を作っているような気がしてならない。
どうしてなんだろう――。
何が、彼女をそうさせているのか。
友人じゃない。誰より近い存在になったのだから、もっと心のままにいてほしいと思うのに。
恋人になった生田さんは、時おり、凄く遠い目をする。
その横顔を見ると、俺は、どうしようもない焦燥感に駆られる。