ニセモノの白い椿【完結】
捕まえたと思ったのに、全然捕まえられてねーじゃん……。
心の中で弱音を吐く。
こんなにも好きだったなんて。
俺も、よくもまあ、あんなに頑なに我慢出来ていたものだ。
今考えると、我ながら信じられない。
”苦労をかけると分かっていて、彼女を手に入れようとは思わない”
その思考スタンスは変わらないのに、今の俺には実行不可能だ。
あの時の自分にはもう戻れない。
俺の知らなかった生田さんの表情を知ってしまった今、その表情を見ることのできない関係に戻るなんてこと、出来ない――。
「あ……っ」
え――?
窓の向こうを見ているようで、全然見ていない俺の元に、小さな声が聞こえた。
その声に振り返ると、まさに今、脳内を占めている人が俺に背を向けてラウンジを出て行こうとしている。
「生田さん、待って」
だから、俺はその背中を引き留めてしまった。
俺の声に、生田さんの肩がびくっと上がり立ち止まった。
ここには俺以外に誰もいない。
知らぬふりをして出て行こうとした生田さんに、地味に傷つきながら彼女を呼び止める。
生田さんが振り返った。
振り返った顔を見たら、また、厄介な感情が込み上げる。
「なーに、気付かないふりして行こうとしてんの」
それでもそんな感情はおくびにも出さず、軽い口調で声を掛けた。
「いや、木村さん、いると思わなかったから。それなのにいるからびっくりして」
びっくりすると無視するのか?
周囲の目を気にしてる?
「どうしたの? これから、帰るところ?」
「そう。喉乾いたから飲み物でも買おうと思ってね」
「じゃあ、買って行けばいい」
金曜の夜はあんなに抱き合ったのに。目の前の彼女を見ると、それすら信じられなくなる。
「あ、うん。そうだね。そうするよ」
自動販売機のすぐ近くに座っていたから、彼女が一歩一歩近づいて来る。
土曜の夜に帰ってしまって。たった一日。日曜日に会えなかっただけで、俺がどれだけ会いたいと思っていたか。
放っておくとそんな恨めしい感情さえ抱いてしまう。
自動販売機の前に立ち、飲み物を選んでいる生田さんの隣に立った。