ニセモノの白い椿【完結】


「ねえ。どうしてだよ。どうして、そんな風に物分かり良くいられるの……? どうしてそんなに冷静なんだよ!」

ようやく唇を離すと、木村が声を漏らした。

「――それは、私がずっと覚悟していたからだよ。こういう日が来るって覚悟をしていた。ただ、その日が来たってだけ」

「それって、いつか別れることを前提で、俺といた、ってこと……?」

酷く傷ついたような目で私を見る。
その目が胸を鋭く切り裂いた。

「俺だって、覚悟を決めていたよ。何があってもあなたと離れないって。誰が反対したって、たとえ許してもらえなくても、俺は椿を選ぶって」

「――それじゃあ、私が嫌なんだよ!」

たまらなくなって、声を張り上げた。

「木村さんのことを大切に育ててくれた人と仲違いした姿を見るのも、私が蔑まれるのを見ていたたまれない気持ちでいるあなたを見るのも全部イヤ! 
木村さんはね、みんなから大切にされて来た人なんだよ? 
だから、それに相応しい人生を歩いてほしいって、思うのよ。別にね、お父様に別れろと言われたから別れるんじゃない。私がそうした方がいいと思ってるからだよ!」

感情のままに叫んで。
肩が上下して、呼吸が苦しくなる。

少しの間の後、木村が口を開いた。

「……俺はさ、椿と付きあえるようになって、一緒に過ごす時間が何より幸せで楽しくてさ。
会って別れたあとでも、すぐに今度はいつ会えるのかって、早く会いたいってそればっかり考えてたよ。
俺は、椿といられなくなるなんて、考えただけで耐えられない。絶対に無理だ。
でも、椿は違うのか? 
俺と一緒に過ごす時間を、そんなに簡単に手放せるの? 
その程度のものでしかなかったのか?」

私にとっても、かけがえのない時間だった。
いつもまでも続いてほしいと願ってしまうほど、たまらなく幸せな時間だった。

「答えろよ!」

悲痛な声が部屋に響く。


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