ニセモノの白い椿【完結】
俺の承諾も何もなく、裏で話し合われていた梨緒との婚約。
俺がまったく関与していないとは言え、はっきりと言っておかなければならないことがある。
実家を出てすぐに、梨緒に電話をした。
「もしもし。親が勝手に進めた話だけど――」
数コールの後、その電話は繋がった。
(やめて。その話はしたくない)
「ちょっと、待て!」
そのままの流れで切られそうな予感がして、声を上げた。
「このままでいいはずはない。俺には大切な人がいる。おまえと結婚するなんてことはありえない。おまえだって、急にこんなことを言われて迷惑をしているはずだ。それなのに、どうして椿に会いに行ったりした!」
こんなバカげた話、断るのが当然だろう。
(……迷惑だと思っていないから、話を進めたんじゃない。それくらい察してよ)
梨緒とは子供の頃からの知り合いだ。
俺にとっては、年下の、妹みたいな子。それ以上の思いはない。
家も比較的近く、父親同士が親交があったから、よく顔を合わせていた。
確かに、好意を感じたことはあったが、それは子どもの頃のもので。俺は梨緒に対して当たらず触らず接していた。だから、そんな感情はもうないものだと思っていた。
「悪いけど。結婚はこんな風にするものじゃないと思う。俺は、俺が選んだ人と結婚する。だからおまえも、おまえが必要として相手もおまえを必要としている、そういう人を探すんだ」
(……あの人は。そういう人だって言うの?)
弱々しい声がスマホの向こうから聞こえて来る。
「そうだ。どれだけ時間がかかっても手に入れるつもりだ。俺もあの人が必要だし、それに、あの人にとっても俺が必要だって信じてる」
それに、梨緒は何も言葉を返さなかった。
「おまえまで巻き込んで本当に悪かった。じゃあ」
こんな風に、これ以上、余計な行動を引き起こさせたくはない。
余計な傷を与えるようなことはしたくない。
だから、俺は、自分の信じた道を行くまでだ。