ニセモノの白い椿【完結】
「俺は、これまで、自分の人生を生きて来なかった。考えることをやめていたんだよ。争いを避けて、無駄にエネルギーを使いたくなくて、なんとなくあなたたちが気に入りそうな方を察しその道を選んで来た」
そんな自分に疑問さえ感じていなかった。
ただ、諦めることを正当化して。
「彼女と出会って、初めて自分の人生を考えた。あの人と一緒にいるにはどうするべきかと考えることで、自分の人生について考えさせてくれた。
そういう人と、出会えたんだ。それは、俺にとってどれだけ意味あることか。
俺の人生において絶対に失ってはいけない人だ。
そんな人をみすみす失うとしたら、俺は大馬鹿野郎だよ。そんな間違いを犯したくない」
絶対にだ。
「人生の優先順位も分からないような、そんな男にはなりたくない」
真っ直ぐに父親の目を見る。
「俺は、俺の人生を自分で決める。自分の考えで自分の手で選ぶ。このままでは中途半端な男のままだからな」
そんな俺のままで、本当の意味で彼女と向き合えるはずなんかなかったのだ。
「父さんの庇護の下で、俺は自分の足で歩いたことなんてなかった」
父親と同じ銀行に入り、頭取の息子としてただそこにいた。
でも、もうそんな自分とは決別する。
俺の、この身一つで、椿に向き合おう。
「いくら親でも、俺の選んだ道を邪魔する権利はない。
あなたが本当の親なら、本当に俺を想うのなら。息子が一人立ちするのをただ見守っていてくれ」
真っ直ぐに射抜くように突き刺した俺の視線に、父親の目が激しく揺れる。
「俺は俺のやり方で幸せな人生を歩いてみせるよ」
最後に、意思を込めて父親に視線を向けた。
そして、深く頭を下げる。
彼女の前に出て行くためには、何より俺が変わってからでなければならない。
本当の意味で大人になるためには、絶対に譲れないものがある。