ニセモノの白い椿【完結】

ふっと空を見上げれば、くっきりと巨大な満月が浮かんでいた。
大きな月がこちらに迫って来ているようで、一瞬ぎょっとする。
月が綺麗だ、なんて思えるような、心の綺麗な人間になりたかった。

ーーなんて感傷的になるのは、何日も一人で過ごしたからだろうか。

再び来た道を戻る。

あ、また――。

歩き出したと同時に、何かを感じる。

ただの思い過ごしかもしれない。ただ、感じるのだ。誰かの気配を。
ここ数日、こういうことが時折あった。
でも、確認するのが怖くて後ろを振り返ったことはない。
それに、何かを感じるだけで、近付いて来る気配はまったくなかったから、余計に気のせいのような気がしたのだ。

だったら、振り向いてみればいいのに、もし目が合ったりしたら――なんて思うと、出来なかった。

自然と足は早歩きになる。
そして、その人の気配は、気付くとなくなっていた。

ふっと息を吐く。

たまたま、近所の人が途中まで同じ経路なだけかもしれない。
夜の道を女一人で歩いているから、過敏になっているだけだ。

そう思うと、その考えに納得できる。

田舎の住宅街ではない。
他にも人通りはある。気にし過ぎているだけだと、そう思っていた。

< 60 / 328 >

この作品をシェア

pagetop