ニセモノの白い椿【完結】

でも、やはり、それは気のせいなんかじゃなかったと、それから一週間後に知ることになった。


仕事帰り、いつものようにお決まりのコンビニに立ち寄る。

夕飯のとろろ蕎麦を手にして、店を出たところでまた何か人の気配を背後に感じた。

近所に住んでいて、たまたま経路が同じ人――そう思おうとした。
でも、この日はその気配が、いつまで経っても消えなかった。

このままでは、アパートに着いてしまう。

家を知られたらどうしよう。いや、もしかして、もう知られている――?

急に恐怖が膨れ上がる。
ここは、アパートへの道を変えようか。全然別のところに向かった方がいいかもしれない。

でも、まだこの辺の土地をよく分かっているわけじゃない。
知らない道に入り込んだりしたら、余計に危ないのではないか――。

次第に鼓動が激しくなる。心臓が痛いほどに騒ぎ出して、身体に力が入る。

とにかく、明るい道に――。

大通りから一歩入った道を、いつもの道と反対の右に曲がる。そこを道なりに歩けば、大通りに戻るはずだ。

人通りの多い大通りに戻り、コンビニに駆け込んだ。

ここにいれば、何かをされることはまずない。

でも、いつまで、ここにいれば――?
あの気配は、今、どこにいる?

もう、どこかに立ち去った?
それとも、コンビニの近くで私の様子をうかがっている――?

そう思うと、背筋に冷たいものが流れるような感覚に身体が震える。

誰かに、来てもらう――?

咄嗟に沙都ちゃんの顔が浮かんだ。

ダメだ。女の子をこんな時間に呼び出すなんて出来ない。そのうえ、危険な男かもしれないのに、そんな場にわざわざ来させることなんてさせられない。

じゃあ――。

ふっと浮かんだ、あの調子のいい顔。

でも―――。

あの食事会の日以来。なんとなく、木村とは顔を合わせないようにしていた。
白石さんの目が常に光っているし、立科さんも懲りずに機を見ては私に声を掛けて来る。

困った時だけ頼るとか、そんな都合のいいことは出来ない。

そう思って、もう一度、そっと雑誌が置かれている棚から外の様子をうかがった。

あ――。

その時。じっと私だけを見ている視線とかち合う。
その瞬間、身体が金縛りにあったみたいに固まった。

本当に怖いと、身体は固まるらしい。
唇だけががたがたと震える。

ただじっと。私を見ている。

あの人、だ。

初めてその顔を見たのに、私は確信した。

早く、どこかに行って――。

心の中で何度念じても、その男は微動だにしない。

コンビニの駐車場脇にある電信柱の側で、何をするでもなくただ立っている。
   
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