ニセモノの白い椿【完結】
翌朝早く、身の回りのものを持って来るために一度アパートに戻った。
来なくて大丈夫だと何度も言ったのに、木村もついて来た。
「もしも、ということがある。普通の男なら、ここはついて行くでしょう?」
なんて言って。
この男、出会ってからを思い返してみれば、なんだかんだと面倒見がよくて優しい。
外見も、そこそこ爽やか風だから、黙っていればモテるのも理解できる。
殺風景な自分の部屋で着替えや生活用品なんかをスーツケースに詰め込んだ。
「――ここで、暮らしてたんだ」
「あんまりじろじろ見ないでください。どうせ、侘しい部屋だって言いたいんでしょ」
女性の部屋だとは思えない、飾り気も暖かみもない部屋。金銭的貧しさと共に心の貧しさまで垣間見えてしまうじゃないか。
「――つかぬことを聞くけど……。答えたくなければ答えなくていいんだけど」
「何? はっきり言ってよ」
珍しく言い淀む木村に振り返る。
「その……離婚は旦那さんの方から切り出されたって言ってたよね? 慰謝料とか、そういうのなかったの?」
まさか、そんな踏み込んだことを聞いて来るとは思わなかった。
「あ……、まあ、多少はもらったけど。専業主婦だったから、四月に再就職するまでの生活費と引っ越し費用に使ったうえに、離婚したばかりの時、自棄で高いものとか買っちゃったりしてね。ほとんど残っていません。お恥ずかしい話ですけど」
そう言って、すぐに詰め込んでいる衣類に目を戻す。
まったく、恥ずかしい話だ。
でも、もう木村には散々恥ずかしい姿を見られている。どう見られようと知ったことじゃない。半ば、自棄だ。
「ごめん、嫌なこと聞いた」
「いいよ、別に」
スーツケースに詰め込む荷物はほとんどが衣類だ。生田椿、人生これでいいのか――そんなことをふと思って哀しくなったが、今はそれどころではない。
そんな時、四角い小さい箱がゴロゴロと出て来た。
それは、元夫にもらった婚約指輪の入った箱だった。
結婚指輪はさっさと捨てたのに、そう言えばこれは処分していなかったことに気付く。
忘れていたのか、捨てられなかったのか――。
「そろそろ行こうか? 仕事、間に合わなくなるから」
「あ、う、うん。わかった」
背後から木村の声が聞こえて、慌ててスーツケースに投げ入れ蓋を閉じた。