ニセモノの白い椿【完結】



出社してから、隣にいるのが白石さんだったと改めて思い知る。

この子が木村に好意を持っているのは分かっている。
あのレストランの一件から、私への当たりがどことなく厳しいことも――。

木村と暮らすことになったという事実が、多少の後ろめたさを私に感じさせる。

絶対にバレるわけにはいかない。

三か月、絶対に何事もなく乗り切ってみせる――。

想像しただけで、恐ろしい。
自分の中で固い決意を打ち立て、仕事に手を戻した。


昼休憩の時間が来て、いつものラウンジでコンビニで調達した昼食を広げた。

それにしても、昨日からいろいろあったーー。

まだ仕事は残っているのに、昼にしてかなりの疲労感だ。

私の人生、急に激しくなり過ぎやしないか――?

これまで、争いごとに巻き込まれないように、人に嫌われないようにと仮面をかぶって穏便に生きてきたのに。一体この状況はなんなのだ。

ふうっと息を吐いて、おにぎりにぱくつく。

この時間帯、ここはがらんとしていた。
だから、ついつい素の自分に戻ってしまい表情も姿勢も緊張感のないものになる。

「――生田さん」

そんな私のもとに、潜めた声が届く。

「木村っ……さん」

素の自分だったから、思わず”木村!”と呼び捨てにしてしまいそうになった。
黒縁眼鏡にスマートなスーツ姿。今朝も見た姿だ。

「な、なんですか?」

つい周囲を見渡してしまう。緊張して、余計に怪しい気もするが気になってしまうのだから仕方がない。

「マンションの鍵、渡しておくのを忘れていた。俺の方が帰りが遅いと思うから、これ持っておいて。合鍵は改めて今日渡すから。ここからの帰り方、分かる?」

木村がシンプルな形状のキーホルダーを付けた鍵を私にそっと渡して来た。
周りに人がいないことを確認してからそれを受け取り、小声で答える。

「大丈夫です」

「そう。じゃあ、後で」

立ち去る背中を見送ってから、無意識のうちに大きく息を吐いていた。

なんか、緊張する。

手のひらにある鍵を見つめながら、もう一度溜息を吐いた。

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