救われ王子にロックオン~溺愛(お礼)はご遠慮させて頂きます~
ベリーヒルズビレッジの広い敷地内にあるセントヒルズホスピタル。

そこが彼女の職場だ。

セント(St.)が付くからといってキリスト教系列の病院かというとそうではなく、セントは゛聖なる゛という意味を表す単語で、ベリーヒルズビレッジの創設者である聖 忠臣(ひじりただおみ)氏の名字が病院名の由来だそうだ。

そこで、あやめは1年前から外科医として雇われている。

いわゆる勤務医だ。

セントヒルズに来る前は、個人の総合病院を何軒か掛け持ちして勤務していた。

って、今は゛私語り゛をしている場合ではない・・・!

あやめは、つらそうなイケメンエリート商社マン(仮)に近寄ると、

「大丈夫ですか?」

と、徐に彼の左手の脈をとりながら話しかけた。

「・・・」

男性は突然話しかけられた上に腕を掴まれ驚いたのか、訝しそうな表情を浮かべた。

しかしその疑問も痛みにはかなわないのだろう。言葉を発することも難しそうだった。

男性が訝しむのも無理はない。

本人には医師の自覚が満載でも、他者評価によるあやめは、どうみても高校生にしか見えないほどの童顔なのである。

身長も155cmと平均に満たない。

胸はそこそこあるつもりなのだか、着やせするのでお子さまにしか見えないのは仕方ないだろう。

大概、初対面の人には同様の反応をされるか、ナメられるかの二択だ。

「気分が悪いのでしょう?あちらに移動しましょうか」

あやめはそんな彼の視線に少しも怯むことなく、180cmはあろう長身の男性を日蔭のベンチまで引っ張っていった。

空にはふるさとでよく見かける竜神雲が見えたが、今はそれどころではない。

本当は横になって欲しいのだが、何せモール前の一番大きな通り。

そんなことを促したら益々彼を警戒させるだけだろう。

「ナンパ、お断り・・・」

モテすぎて困る男特有の勘違いが、彼の口をついた。

「よかった・・・!まだ、冗談を言う元気はあるんですね。ところで痛むのは右の下腹部ですか?」

男性の牽制を華麗にかわして事の確信に迫るあやめに、イケメンエリート商社マン(仮)は苦痛の中にも驚きを顕にした。
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