救われ王子にロックオン~溺愛(お礼)はご遠慮させて頂きます~
彼のファーストインプレッションは゛プレショック゛状態。

放っておけば必ずショック状態に陥る前段階だ。

医学でいうショックとは、脈拍が触れない、冷感・冷や汗、呼吸がおかしい、意識がボーッとする、などのいわゆる循環不全の状態を意味する。

あやめは脈をとること(橈骨動脈に触れる)である程度病状を把握できる゛脈診゛を得意としていた。

東洋医学の診断技術なのだが、あやめは、それに加えて、患者に触れてオーラを嗅ぎとり患部を言い当てることのできる不思議な゛第6感゛を持ち合わせた奇特な医師だった。

゛何故わかるのか?゛と言われても、わかるのものは仕方ない。

もちろんそれだけに頼るのではなく、確実な検査データや画像などで裏をとってから確定診断を患者に話している。

それが間違ったことがないから類い稀と言われる所以なのだけど・・・。

ここで患部に触れられれば更に確実なのだが、今、屋外でそれをやってしまうとセクシャルハラスメントで訴えられる可能性があるのでやめておく。

しかし・・・。

そんなに詳しい診察をしなくても、見ただけ、肌に触れただけで明らかなことが一つある。

゛彼はこのままだとヤバイ゛

「大丈夫です。私は・・なんともありません。これから大事な商談があるので・・・失礼し・・・」

「童顔ですが私は医者です。はっきり言いますと、あなたがこのまま仕事に行った場合、私はあなたの命の保証ができません。それでも私の手を振り切って、あなたはお仕事を優先されますか?それは命よりも大切なことなのでしょうか?」

見つめるあやめの目は真剣だった。

冷や汗、手の冷たさ、脈の早さ。

鑑定診断がつかずとも重症で緊急度が高いのは一目瞭然。

焦りも生じるが患者であるこの男性にそのことを悟らせるわけにもいかない。

「あなたはおそらく急性虫垂炎いわゆる盲腸の可能性が高いです。しかも腹膜炎を併発しているかもしくは腸管穿孔を起こしている」

「え?あ、あなたは何科の、医者なのですか・・・?」

先程までの強気が嘘のように、弱々しい言葉で彼は質問してきた。

「目の前の゛セントヒルズホスピタル゛に勤めている外科医です」

あやめは堂々と微笑みを湛えて答えた。

「安心してください。当院には世界でも有数な外科医のスペシャリストが揃っています。ご希望があれば私から各分野の名医につなぐことも可能です。急ぎますよ」

あやめは、男性が頷くのを待つことなくスマホを操作し始めた。

「もしもし、あやめですけど、モール内、まつやの前にメディカルカーをお願いします」

「年齢と名前は・・・これから確認になります。はい、私が同乗して引き続き診療に参加しますので受け入れ準備をお願いします」

痛みの中、成り行きを理解できないまま、自称、童顔女医の勢いに翻弄されるイケメンエリート商社マン(仮)。

その美しい顔は、苦痛に歪み、冷や汗を浮かび上がらせて憂いを帯びていたが、あやめには一切関係はない。

サイレンの音と、頼りがいがあるのかないのかわからない童顔女医の励ましを聞きながらイケメンエリート商社マン(仮)は目を閉じた。

温かい頬の感触から、いつの間にか初対面の女医の膝の上に寝かされていたことを悟る。

甘い柔軟剤の香りを鼻腔に感じながら、男性は徐々に遠い意識の底に引き込まれていった。

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