救われ王子にロックオン~溺愛(お礼)はご遠慮させて頂きます~

夢へのベクトル

「美味しい!やっぱりまつやの抹茶は最高。この和食も天下一品ですね」

美味しそうに運ばれてきた料理を口にして、合間に副物としての抹茶(薄茶)を味わうあやめは、飾り気のない少女のようで可愛らしかった。

光治も田中もそんなあやめを見て癒されている。

「たくさん食べてください。お医者様も体力勝負でしょうからね」

「私は勤務医ですし、ここのセントヒルズホスピタルほどホワイトな病院はありません。週休2日で残業も少ないですし、何より私、こう見えて夜勤以外はランニングで鍛えてますから健康には自信があります」

光治の気遣いに笑顔で返事をするあやめ。

その様子は無防備で、仕事中の真面目なイケてる女医モードとは違った魅力があった。

かといって今の光治はあやめの魅力に溺れるだけの゛脳内お花畑野郎゛に成り下がるわけにはいかない。

あやめの言葉を一語一句を聞き漏らさず、そこから得られる情報を糧にチャンスをものにしてこそ敏腕彼氏になれるというものだろう。

「夜間にランニングされているのですか?」

「仕事帰りに五キロほど」

「夜に一人で?」

「そんなに遅くではありませんよ。この辺りはとても良く整備されていて治安もいいですし、ランニングコースも常設されているから問題はありません」

食べる手は決して止めずにあやめは答え続けている。

「あやめさんのお住まいは医師用のマンションですよね?ベリーヒルズビレッジの敷地の外にある」

「良くご存知ですね。セントヒルズホスピタルからは徒歩圏内だしこの辺りは商業施設も充実していて重宝しています」

会話しながらも食事に集中するあやめは本当にお腹がすいていたらしい。

気も漫ろ(そぞろ)な今がチャンスだ。

「僕もあやめさんと一緒に走りたいな。構いませんよね」

「うーん、これも美味し・・・。それは構わないんじゃないですかね」

「さすがはあやめ様、心が広くていらっしゃる。やはり私の予想通り光治様もあやめ様とのランニングに乗り気でございましたね」

「心が広いねえ・・・って、もしかして私、今何か微妙な約束をしてしまいましたか?」

「僕と一緒に夜のランニングをしていただけると」

えっー!と、声を上げたあやめは、やはり話半分、生返事だったに違いない。

「光治様。ウェアとシューズ、その他必要と思われるものはすでに手配済みでございます」

「さすがは田中ですね。仕事が早い」

「恐れ入ります。記念にあやめ様の分もご用意させて頂きました。後程ご自宅まで配送致しますね」

フフフと笑う二人が用意周到過ぎて言葉を失う。

どうせ策士な執事・田中の差し金に違いないけれど。

あやめは食事に熱中しすぎて適当に返事をしてしまっていた自分の浅はかさを呪った。

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