切ないほど、愛おしい
鈴木孝太郎。31歳。
鈴森商事専務で、現社長の一人息子。
その有能さも血筋以上で、後数年すれば社長になるのは間違いないと言われている切れ者。
そして、俺の幼馴染で親友でもある。

「徹、今日は休みだよな?良かったら一緒に飯はどうだって、麗子が言ってるんだが?」

珍しく週末に休みが取れたんなら恋人と2人で過ごせば良いのに、何で俺を誘うんだか。

「2人で行けよ。俺も予定がある」

本来なら会社の御曹司に向ける言葉ではないが、互いに遠慮はない。

俺と孝太郎は、11歳からの4年間を同じ家で共に育った。
とは言え、兄弟でも親戚でもない。
小学5年の時におやじの会社が倒産し、おやじと母さんが立て続けに亡くなり、ひとりぼっちになった俺を引き取ってくれたのが、おやじの親友だった社長。
孝太郎とその妹の一華と、3人分け隔てなく大切に育ててもらった。

「もしかして、今日も仕事をするつもりか?ここしばらくまともに休みを取ってないんだから、少しはゆっくりしろ」

「わかってる」

言われなくても、今日は休むつもりだ。
だからこそ、大阪出張には同行しなかったんだ。

「まともに休んでないのは孝太郎も一緒だろ?俺なんかにかまわずに、たまには麗子の機嫌でもとってやれよ」

孝太郎の恋人、青井麗子。
誰もが振り返ってしまうほど美人の彼女は、俺の高校時代の同級生。
外見の華やかさ故に随分と苦労もしてきているが、性格の真っ直ぐないい奴だ。
だからこそ、俺が孝太郎に引き合わせたんだ。
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