切ないほど、愛おしい
「わかった。せっかくの休日だゆっくりしろ」

「お前もな」

忙しくて休みが取れないのは孝太郎だって変わらない。
専務取締役の肩書があればなおさら気持ちの休まる暇はないはずだ。

そもそも、なぜ俺たちがこんなに疲れているのか?
それにはそれなりの理由がある。
実は・・・
今から半年ほど前、鈴森商事は大きなトラブルに見舞われた。

いきなり始まったネットによる誹謗中傷と、相次いだ取引中止の申し入れ。
当時は会社の存続を心配してしまうほどの事態になった。

ネットの書き込みや嫌がらせだけなら珍しくもないが、他の企業を巻き込むとなればそれなりの力が必要となる。
きっと何かあるはずだと、必死に調べた。
そこでわかったのが、日本を代表する財閥『浅井コンツェルン』からの圧力。
そして、その動機は身分を隠してうちの会社に勤める一人息子を取り返すためだった。
息子を連れ戻すために勤め先の会社を攻撃するなんて一見意味不明な行動に見えるが、どうしても跡を継がないと言い張る息子に、「戻ってこないなら、お前が勤める会社を潰す」と脅したらしい。

「金持ちはやることが違うな」
つい愚痴が出てしまった。

会社では絶対言わない事も、孝太郎には素直に言えてしまう。

「そうだな。本当に」
不機嫌そうな孝太郎。

色々と思うところはあるらしい。
< 44 / 242 >

この作品をシェア

pagetop