切ないほど、愛おしい
むくれてしまって窓の外に視線を向ける私を、徹さんがチラチラと見ている。
信号で止る度に何か言いたそうにするけれど、言い出せないまままた車が動き出す。
そんなことを何度か繰り返した。

これだけのお金持ちで一流企業に勤め、見た目だって悪くなければきっともてるだろう。
でも徹さんからは、遊び慣れた感じはしない。
どちらかというと、女性に不慣れな感じ。
もちろん、私自身もそんなに恋愛経験があるわけでは無いけれど。

ちょっとかわいいな。
心の中で呟いた。

年上の男性にかわいいなんて失礼かも知れないけれど、少し不器用な感じがとても良い。
もしこれをわざとやっているなら最低だけれど、そうじゃないと信じたい。

一人妄想を巡らせながら、私は窓に映る徹さんを見ていた。


「お腹すいてるなら、先に食事に行くか?」

やっと声がかかったのは、鈴森商事の本社ビルが見えるようになってからだった。

「私はまだ大丈夫。仕事があるんでしょ?」

休日に出て行くくらいだから急ぎの仕事だろうし、先に済ませた方が良いと思う。

「そうだな。メールを何件か確認して返事をするだけだから」
「そう。私は車で待ってましょうか?それとも、」

近くにコンビニや時間のつぶせそうな店があれば待っていると言おうとしたのに、

「良かったらついてきて」
「でも・・・」

部外者が勝手に入ったらまずいでしょう。
誰かに見つかったら徹さんが困るのに。

「大丈夫、今日は休日だから人も少ないし。終わったら食事に行こう」
「うん」

ちょうど車が地下の駐車場に止り、私は徹さんの後について鈴森商事に入った。
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