きみに ひとめぼれ


「おい」

「ん?」

「いつまでそうしてんだよ」


あいつは僕の質問に答えない。

ただぼんやりと、テニスコートの中で行われる華やかなテニス指導を見学していた。

テニスコートにはもうほとんど部員はいない。

本田が制服姿の女子のテニスの相手をしている。

そこには太田さんの姿もあった。

動くたびに短いスカートがひらりと揺れる。

女子らしい甘ったるい声と無邪気な笑い声が、夕方の空に響いた。

しばらくすると、あいつはぽつりと話し始めた。


「なあ園田」

「ん?」

「告られた」

「え?」


思わず大きな声が出た。


「いつ? 誰に?」

「さっき。吉川さん、だっけ?」


__「だっけ?」って。
 

僕には驚きしかなかった。


3年生に吉川さんという学校中のマドンナがいる。

頭が良くてスタイルもよくて、美人というよりかわいい顔をしている。

女子からも男子からも慕われて、先生の信頼も厚い人だ。

そんな人が、こいつに告白したというのか。

このイケメンでもない、優男でもない、目立ったことや面倒なことをひたすら避け、女子や恋愛に縁のない地味な男子の代表みたいな男に。


「で、どうなったの?」


 僕ははやる気持ちを抑えられず聞いた。


「付き合ってる人がいないなら、付き合ってほしい、って」

「うん」


 僕は早くその先が聞きたくて、思わず身を乗り出していた。


「ちょっと、近い近い」


あいつは身を乗り出す僕をおかしそうに笑って制した。

それからあいつは空に向かってふーっと大きく息を吐いて、少し考えるような素振りをしてからようやく答えた。


「モテ期、かな?」


何言ってんだ、とぶっ飛ばしたくなるところだけど、あながち間違いでもない。

この男に今、モテ期が来ている。


最近女子たちがこそこそとあいつを話題にするようになったことに僕は気づいていた。

良い意味で。


サッカー部には広瀬狙いの女子意外に、あいつ狙いの女子が密かに増えてきている。

なんで急にそんなことになったのか。

目立たないように学校生活を送ってきたこの男が、今どうしてブームなのか。 

きっかけは、もうあれしかない。


体育祭だ。


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