きみに ひとめぼれ

後ろからあいつにゆっくりと近づいた。

そしてあいつと並ぶ手前で、僕はあいつのリュックに不思議なものを見つけた。

思わず二度見してしまった。


 生八つ橋だ。


さっきお土産屋さんで試食しまくった生八つ橋が、あいつのリュックに張り付いている。

あいつは「黒ゴマ味が上手い」と絶賛していくつも食べていたけど、こんなところに連れ帰ってきている。

僕は恐る恐る声をかけた。


「お、おい、おまえ、八つ橋くっついてるぞ」


と指摘して、その八つ橋をはがそうとした。

僕の指先にざらっとした手触りと、プルンとした感触が伝わった。

でも、はがすことはできなかった。

それに気づいたあいつは慌ててかばんを抑えた。


「おお、園田。騙されたか」


あいつはおかしそうにイヒヒと笑った。


「え?」

「これ、生八つ橋の食品サンプル。しかも黒ゴマ味。すごいだろ」


あいつがかばんをこちらに向けて「触ってみ」と言うので、改めてその感触を確かめた。


「超リアルだろ。一瞬で惚れたね」

「お前こういうの好きだっけ?」

「別に好きとかじゃないけど、何となく目に留まって」
 

あいつは生八つ橋を愛おしそうに見つめた。


「良いお土産になったと思わない?」


そうだろうか。

僕にはさっぱりわからない。


「おまえも買う?」

「いらないよ、そんなの」


そんな会話をしながらトイレを出た。

そのまま僕は土産物屋に入った。

自分の修学旅行のお土産を探しに。

あいつは「これでもう十分」と言って、先にグループの集合場所に向かった。

狭い店内をぐるりと見て回ると、あいつがかばんにつけていた生八つ橋の食品サンプルがずらりと並んでいる。

僕はそれを手に取って、すぐに戻した。

結局ピンとくるものがなくて、家族へのお土産を買って僕の修学旅行は終わった。

買ったお土産は、やっぱり生八つ橋だった。

それは、食品サンプルではなく、本物の生八つ橋だ。


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