溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
「いや、だからそれは」

「肩まで抱いてふたりで、タクシーに乗って、こんな時間までなにしてたのっ!?」

 声をあげた瞬間、わたしの目からポロリと涙がこぼれた。

「何度も連絡したんだよ。いつもならこんなにしつこく連絡しない。それなのにメッセージのひとつも返せないほど忙しかったの? あの女の人となにしてたの?」

 せきを切ったように彼を責める言葉が次から次へと出てくる。

 興奮してたわたしは流れる涙も気にせず、彼を睨んだ。

「瑠璃、ちょっと落ち着いてくれ。きちんと話ができるまで、もう少し時間をくれないか」

 和也くんの手が伸びてきて、泣いているわたしの背中に添えられた。いつもならそのぬくもりを感じると安心できるのに、今はなにも感じない。

「とりあえず今日は遅いから、休もう」

 促されたわたしは、和也くんの表情からわたしを心配していることはわかったけれど、だからといって、納得できる答えをもらっていないので心は荒れたままだ。

「話ができるようになったら、必ず話すから。今は我慢してほしい」

 ベッドに入って背を向けて眠るわたしに、もう一度念を押すように繰り返した。

「わかった。そんなふうに言われたら、これ以上なにも聞けないから、おやすみなさい」

 わたしから早々に彼との話を切り上げたのは、もしかしたらはじめてかもしれない。今日はこれ以上醜い感情に心を支配されたくなくて、わたしは眠ったふりをした。

 和也くんの、バカ。
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