溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
 今からすべて明らかになる。事情がわかりつつある今でも、あのときの気持ちを思い出すと胸が苦しい。

 そんなわたしの手を和也くんは、ギュッと掴んで急かすことなく中に連れていってくれる。

 リビングにあるソファにわたしを座らせ「ちょっと待ってろ」と言って、自分はキッチンに向かった。

 疲れ切ったわたしはソファに深く座り込んだ。色々な思いが胸に渦巻く。それをなんとか整理しようと、じっと目をつむって気持ちを落ち着けていた。

 気配を感じて目を開く。和也くんが両手にマグカップを持って立っていて、ひとつをわたしに差し出した。

「お待たせ」

「ありがとう」

 受け取りマグカップの中身を見ると、ミルクティーだ。

「とりあえず飲んで。淹れるの下手だから、好みじゃなかったらすまない」

「ううん。ありがとう」

 アールグレイの華やかな香りにミルクのまろやかさが加わる。癖のある組み合わせだがわたしの好みの味だ。

「おいしい……」

「そうか、よかった。姉貴に聞いたんだ。この間会ったんだろ?」

 わたしは小さくうなずいた。

 和也くんがわたしの隣に座る。

「足はもう平気なのか?」

「うん。少し違和感があるけど、大丈夫だよ」

 足を動かして見せると、和也くんの表情がほんの少しやわらいだ。

「なんであんな無茶なことしたんだ。瑠璃が襲われそうになっているのを見たとき本当に驚いた」

「体が勝手に……」

 本当にそうとしか言い様がない。

「お前は俺の浮気相手かもしれない相手でも、助けるんだな。とんだお人好しだ。でもそういう瑠璃だから俺は好きになったんだ」

 呆れたように笑う和也くん。だけどそれはお互い様だ。

「和也くんだって、困ってる人がいたら放っておけないじゃない。今回のことだってそうでしょ?」

「ああ、そうだ。瑠璃、週刊誌でレイナさんのことを知ったんだよな」

「うん」
< 143 / 156 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop