溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
「おい、聞いてるのか?」

「へ?」

 いきなり話しかけられて、我に返る。

「へ? じゃねーよ。とりあえずは大丈夫そうだけど、俺は専門外だから少しでも変なところがあれば、ちゃんと受診しろよ?」

 心配そうにわたしの顔を覗き込んでいる。

「うん。でも今和也くんが診てくれたから、たぶん平気」

「なんだよ、それ。ほら立てるか?」

 差し出された手にわたしは自分の手を伸ばす。するとギュッと大きな手がわたしの手首を掴み引きあげてくれる。

「ありがとう」

「いや、俺が急に声をかけたのが悪かった。送っていくから準備して」

「送ってって……いいの?」

 思わず目を輝かせてしまった。

「もし途中で足がまた痛みだしたら困るだろ。明日も仕事なんだから」

 白衣を脱ぎながらそっけなく言う。

 まぁ、そうだよね。今はわたしを雇ってるんだから、スタッフとしてきちんと働いてもらわないと困るだろうしね。

「はい。ではよろしくお願いします」

 すでに着替えを済ませていたわたしは、受付に置いてあったバッグを手に取ると和也くんの後に続いてクリニックを出た。

 車はクリニックの近くの駐車場に停めてあった。すぐに助手席に乗り込みシートベルトをするとなめらかに走り出した。

「どうだった? 一日目」

「うん、大変は大変だったけど、それに勝る収穫がたくさんあったので!」

 隣で運転する和也くんを見る。

「おい、じっとこっち見るな」

「なんで、わかったの? どのあたりまで見えてるの?」

 バレていないと思って思い切り彼を堪能していたわたしは、彼の横で手を振って確認してみる。

「バカなことやめて、じっとしてろ。あ~もうこんな時間か」

 時計を確認すると時刻は二十時を過ぎていた。
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