溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
 その日は診察を終えた後、君島先生の歓迎会をしようという話になっていた。それぞれ着替えを済ませて待合室で集合する。

「どんなお店なのか楽しみです! 予約までありがとうございます」

「飲みに行きたいだけだから、気にしないで」

 真鍋さんの答えに、わたしは思わず笑ってしまう。

「あはは。でもお子さんいらっしゃったら、なかなか飲みに行くのも難しいですよね? 今日はお子さんたちはどうしてるんですか?」

「あぁ。今日はね、旦那が実家に連れていってる。そういうところは理解があるから」

「そうなんですね。ママもたまには、息抜きが必要ですよね」

 真鍋さんは仕事と家事とをうまく両立していると思う。本人は「手抜きだらけ」と言うけれど、話を聞いていると本当に大変そうだ。

「じゃあ、行こうか」

「あの、中村先生は?」

 キョロキョロと見回してみるが、そこに和也くんの姿はない。

「ああ、中村先生はこういうの行かない人だから。ほら、早くしないと予約の時間に遅れちゃうわよ」

 真鍋さんに急かされるようにして、わたしたちはクリニックを出て、予約しているイタリアンレストランへと移動する。

 三人で仕事の話をしながら歩いていく。すると途中で真鍋さんのスマートフォンが鳴った。その瞬間彼女の顔が曇る。

「嫌な予感がする」

 そう言いながら電話に出た真鍋さんは、電話を終えたとたん、がくっと肩を落とした。

「下の子が熱出したみたい」

「えっ? 大変じゃないですか!?」

 驚いたわたしに真鍋さんは苦笑いを浮かべた。

「そうね。心配だし、今日は悪いけど帰るね」

「病気じゃ仕方ないですよ。また次回行きましょう。ね、君島先生」

 わたしの呼びかけに君島先生も「そうだね」とうなずいた。

「そんな、とんでもない」

 しかしそこで真鍋さんが声を上げた。
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