溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
「あの、えっと、ちょっと待って!」

 気がつけばわたしの前には、食べきれないほどの料理が並んでいた。

「わたし、そんなに食いしん坊じゃないですから。おふたりとも、わたしのことは気にせずにたくさん食べてください」

 呆れたわたしに、君島先生が自身の取り皿を突き出した。

「じゃあ、瑠璃ちゃんが取ってくれる? 他の女の子にはお願いしないけど、今日は俺が主役だから」

「いいですよ? 嫌いなものないって言ってましたよね?」

「うん。たとえ嫌いなものがあったとしても、瑠璃ちゃんが食べてって言うならなんでも食べるよ?」

 にっこりとほほ笑む君島先生。あれこれ盛りつけたお皿を手渡すときに、おふざけを注意する。

「もう、ふざけて――」

「俺のも」

「え?」

 わたしの言葉を遮るようにして、和也くんがぐいっと取り皿を突き出した。

「俺のも取って」

「もちろん、いいけど……」

 仕事ならまだしも、和也くんがわたしになにかを頼むなんて珍しいことだ。

 まあ、色々やってあげたいわたしはうれしいけど。

 嬉々としてお世話をはじめたわたしに、君島先生は不満をぶつける。

「俺の歓迎会なのに、中村先生ずるい」


「別に、いいだろ」

 まるで相手にしない態度に、君島先生はますます不機嫌になる。

「そういうのって、職権乱用じゃないんですか? パワハラ?」

 ヒートアップしそうになって、慌てて止める。

「もう、今日はふたりともどうしたんですか? あ、もしかしてお酒が足りない? 飲みましょう、ね? ね?」

 なんとか悪い雰囲気を払拭しようと、わたしは自ら率先してお酒を飲んだ。

「おい、無理するなって」

「大丈夫ですって、今日は飲みたい気分なんですっ」

 そう、和也くんの忠告を無視して飲んだわたしは、一時間後……。

 寝ちゃだめ、こんなところで……。

 そう思うけれど、瞼がどんどん重くなっていく。

「おい、寝るなよ」

 和也くんに言われて、何度かパチッと目を醒ます。

「だいじょう、ぶ、だよ?」

 そう返事するけれど、強烈な眠気に耐えきれない。

「あらら、飲みすぎちゃったかぁ」

 君島先生の声がものすごく遠くから聞こえる気がした。

「まったく、仕方がないやつだな」

 和也くんの呆れ声を聞いた後、わたしの意識が遠のいていった。
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