溺愛全開、俺様ドクターは手離さない
* * *

 きっかけは、仕事を終えてマンションの駐車場に車を止めた瞬間に受信したメッセージだ。相手は真鍋さん。仕事のことでなにかあったのかと見てみる。

【子供が熱を出したので、わたしは飲み会に行けなくなりました】

 ん? どうして俺にわざわざ送ってくる? 明日仕事を休むということだろうか?

 そう思ったがその後に続くメッセージで彼女の意図がつかめた。

【ゆえに、瑠璃ちゃんと君島先生がふたりっきりで、雰囲気のよい店でお食事することになります】

 だからどうしたんだ? そう思い車を降りてマンションのエレベーターに向かう。しかし歩いている最中もあのメッセージがどうしても頭から消えない。

「くそっ」

 結局俺は、悪態をつきながらも、真鍋さんがご丁寧にも送ってくれた店の情報を飛び乗ったタクシーの運転手に伝えていた。

 思い返すと、あのときの自分はどうかしてたんだと思う。

 いや、最近どうも感情で動くことが多い。その原因は紛れもなく瑠璃なのだけれど。

 到着すると、瑠璃がすこぶるいい笑顔を見せた。それを見て来てよかったと思う自分にも少々呆れる。

 けれど、予想していた通り、いやそれ以上に君島の態度が気に入らない。

 君島は少なからず瑠璃に好意を寄せている。最初はからかっているだけかと思ったが、どうやら少し様子が違うようだ。

 ことあるごとに俺を煽るような行動をとる。いちいち反応してしまう自分もどうかと思うが、気に入らないものは気に入らない。

 瑠璃自身は君島の気持ちに気がついていないのだろうか。いや、もしかしたら君島が伝えたかもしれない。

 今日のあの態度を見れば、隠すつもりはさらさらなさそうだ。それどころか、瑠璃が眠りこけた後、俺に笑って宣戦布告してくるあたり、たちが悪い。

 完全に飲みすぎた瑠璃が、すっかり寝息を立てはじめた。

「俺が送っていきます」

 そういって君島が伸ばした手を、俺が払った。するとおもしろいものでも見るように俺を見る。
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