あの丘で、シリウスに願いを
その時だった。
「洸平、メシのとこ悪いけど、頼む」
頭に寝癖をつけたまま、白衣を羽織りながら明らかに寝起きの翔太が顔を出した。
「弁当まだ半分しか食べてないよ」
「水上先生、私行きます。お弁当、食べてて下さい」
「あれ!?もう来たの?じゃ、まことでいい。俺は診察に入るから、処置を頼むよ」
翔太は指示だけ飛ばし、すぐに消える。いつもと変わらないその様子にまことは緊張していたのが馬鹿みたいに思えた。
「行ってきます」
「あぁ、よろしく」
冷静を取り戻して、まことも部屋を出た。
一人、食べかけの弁当を見つめながら水上がつぶやく。
「まこと、ねぇ」
ーーなぁ、洸平。俺さヤバイ。本物かも。
早朝に手伝いに駆けつけてきた翔太は、いつも以上に浮かれていた。忙しくて詳しく聞けなかったけれど、昨夜のデートがうまくいったのだとすぐに察した。
長い付き合いだが、翔太が女の子を呼び捨てにしているのを、初めて聞いた。
これは、ひょっとするかもしれないな。
水上は、親友のためにもこれからはなるべく早く自宅に帰るようにしようと心に決めた。