あの丘で、シリウスに願いを
第十章 ウソつき
あの日、野球観戦に行けてよかったと、まことは心の底から思う。


救命外来に専門医の資格を持つ小西(こにし)医師がやって来た。
彼が育つまで負担は増えるが、翔太からは“人材を育てる”ことを学ぶように言われていた。翔太や水上と小西に指導をしながら、業務もこなす毎日は多忙を極め、大好きな野球を見ることもままならない。



「いいなぁ、洸平。柊子ちゃんの愛妻弁当」
「いつも、彩りもバランスも良くて。手のかかる赤ちゃんがいるのに、偉いなぁ」

水上が昼食に食べている弁当を覗きこんで、翔太とまことがため息をついた。

「俺は最近コンビニの弁当ばっかり」
翔太はコンビニ弁当の蓋を開けながら、ボヤく。

「お弁当ならまだ栄養取れてるよ。六平先生は最近菓子パンとカップ麺ばかり。体壊すよ?」

水上に言われ、まさに菓子パンの袋を開けていたまことはバツが悪そうにパンにかじりついた。

「私、このところ担当した患者さんが立て続けに亡くなって…。なんだか食欲も湧かなくて」

どれほどの処置を施しても救えなかった命。死と向き合うことが多いと、どうしても落ち込んでしまう。そんなまことの気持ちは、水上と翔太には痛いほど共感できる。

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