あの丘で、シリウスに願いを


まことは集中治療室に三郎を託し、医局に預けていた私物と預かったままの翔太の上着を手にロビーに向かった。

誰もいないロビーに水上がいた。すでに着替えて、手に缶コーヒーを持っている。

「お疲れ様、六平先生」
「お疲れ様でした、水上先生。今日は、どうしてこちらに?」
「北山先生と同じ勉強会に参加していてね。一緒に飲もうって話になって。そこのバーにいたら救急車が。勝手に体が反応してしまったよ。職業病だよね」

「そうだったんですね。あ、これ、翔太先生の上着なんです。お渡しして下さい」
「翔太の?」
水上は受け取った上着の内ポケットを見た。見慣れないピンク色のペンがささっていたが、刺繍は、S.ICHIJO。翔太のものに間違いない。

「わかった。
…あんまり元気そうに見えないね、六平先生。仕事、大変かい?」
「全然慣れなくて。だめですね、もう三ヶ月も経つのに。
柊子さんと信子さん、冬輝ちゃんはお元気ですか?」
「おかげ様で元気だよ。冬輝は一人でおすわりできるようになったんだ。見て」

水上がスマホを見せてくれる。柊子と信子そして冬輝の写真でいっぱいだ。

「わぁ、大きくなりましたね!可愛いなぁ」

水上が次々と見せてくれる幸せいっぱいの家族写真にちょっとほっこりする。

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