あの丘で、シリウスに願いを
まことは、お弁当をテーブルに置き、俯いた。

「私、ダメなんです。仕事が手につかないくらい自分がコントロールできない。
だって、ここ、ベリーヒルズですよ?どこを見ても翔太先生を思い出してしまう。忘れてと言われても、そう簡単に忘れられませんよ」
「不思議だね、同じだ。仕事中、俺も無意識に君を思い出している。
ねぇ、まこと。俺の選択は間違ってたのかな。君は横浜にいたほうが、医師として成長できたのかな。でも、それと引き換えに体を壊したら元も子もないよね。俺はどうしたら良かったんだろう」


翔太がまことに問いかける。


間違いなく、これはチャンスだ。
まことには神様がチャンスをくれるなら、翔太にお願いしたいと思っていた提案があった。
高鳴る鼓動を感じながら胸に手を当ててる。

「翔太先生は“一条”の人間で、常に最高を目指して努力し続けなければならないこと、わかっています。だけど、私も翔太先生も、仕事中毒で一人じゃ壊れてしまう。
翔太先生。提案があります。
『一条翔太』の時間を私に少しだけくれませんか?仕事から離れた、医師ではない『一条翔太』として過ごすわずかな時間を。
私はやっぱりあなたと一緒に、ご飯食べて美味しいって言ったり、綺麗な景色見て笑ったりしたい。痛い時や怖い時はそばで励ましあいたい。
同じ目線で、色んなこと共有していきたい。
どんな未来もあなたと一緒なら最高になる。
代わりに、私の『六平まこと』としての時間をあげます。平凡でつまらない人間ですけど…」

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