あの丘で、シリウスに願いを
第四章 仮にも医者ですよね


カーテンを開けると、もう陽は西に傾いていた。
昼過ぎまで仕事だったまことは、寮に戻るとそのまま眠ってしまっていた。

大きく伸びをすると、身体がバキバキと音を立てる。

ーー散歩に、行こう。

散歩はまことの習慣だ。時間さえあれば、散歩に出かける。街を眺めながら散歩することで、仕事の疲れもリフレッシュできた。



冬の空気は乾燥していて冷たい。日もだいぶ暮れ近くの公園では、そろそろ遊んでいた幼児達が帰ろうとしていた。


「あ、こんにちは」


以前、まことがコンビニ帰りに出会った、犬の散歩をしていた女性。あの後も散歩中によく会い、挨拶するようになっていた。
彼女はいつも母親と思われる女性と一緒に歩いているが、今日は一人で公園のベンチに座っていた。彼女のお腹は大きい。いつ産まれてもおかしくないくらいの大きさだ。かなりしんどいだろう。


「こんにちは。お一人ですか?」
「えぇ、母に夕飯の支度をお願いして、私はちょっとそこのスーパーへ」
「そろそろ、予定日では?」
「もう、過ぎてしまいました。こうやってなるべく動くようにしているんですけど、なかなか来なくて。お腹は張るのですが」
「今日も寒いですから無理しないでくださいね」
「ありがとうございます」


名前も知らない。それでも、彼女の明るく幸せがにじみ出るような笑顔が好きだ。


彼女に軽く会釈して、まことが再び歩き出そうとした、その時だった。

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