復讐目的で近づいた私をいくらで飼いますか?
お昼を軽く済ませて、眠気が襲う時間帯。
私は新に頼まれた鏡秋のモナカを買うべく、列に並ぶ。『いいよ』と言った手前、喧嘩したから買いに行かないというのは違うような気がしたからだ。
あわよくば、モナカを新に差し出すことで昨日のヒステリーを許してもらおう、なんて考えが脳裏にあることは言うまでもない。
割と待たされそうな雰囲気を察知したと同時に欠伸が出た。
しかし、その欠伸は途中で止まる。
「眠たそうだね」
聞き馴染みのある声。そして最近ずっと聞いてなかった声に私の心はざわついた。
「そうちゃん…!」
「相変わらず元気そうで良かった」
振り返ると、後ろに並んでいたのはそうちゃんだった。
「これから会いに行こうと思ってたのに、まさかここで会えるなんて」
「今ちょうど休憩中。グッドタイミングで純連が見えたから引き寄せられるように並んじゃった」
柔らかな笑顔は陽気みたいに暖かい。ふんわりとした感じは草花に似た癒し効果を発揮している。
「美味しいよね。鏡秋。何買うの?」
「モナカ。そうちゃんは?」
「まだ迷い中。咄嗟に並んだからね。」
よかった。前と変わらない自分で話せている。そのことにホッと胸を撫で下ろした。
「……あれ? 純連…餡子、苦手じゃなかった?」
「新の分だよ。そういえば新が『颯汰によろしく』って」
「そっか。僕からもよろしく伝えておいて欲しい」
「うん」
新の話題を出すのは何だか気が引けると思っていたけど、変わらずの対応をしてくれるそうちゃんのおかげで普通だ。
と、思っていたけれど、これに続く会話はなかった。
少しだけ訪れる沈黙。肩に重たい荷物を背負ったような感覚に、私は無意識に頬を指の腹で掻いた。
「………純連、この後、庭園で一緒にお菓子食べよう。」
先に沈黙を破ったのは、そうちゃんだった。
「時間大丈夫なの?」
「うん。割と余裕。」
それから数分後。平日の昼間なのに人気な和菓子屋で目当てのものを購入し、屋上へと続く階段へと向かった。