時雨刻
ぼぐっ。

イヤな感触がして、奥様は抵抗もなく前のめりに崩れてゆきました。

ビクン、ビクン。

大きく2度、身体を痙攣させたあとは、もうぴくりとも動きません。

必死だったわたくしは、ただの一撃で、奥様を仕留めてしまったようです。


わたくしは、その様をボンヤリと見つめていました。

傍らに、いつの間にか白い浴衣を羽織ったあの方が立っておりました。


恐ろしいことをしてしまった。

(ようや)く我に還ったわたくしは唇をわななかせ、恐々、あの方のお顔を見上げました。

"ああ、わたくしは一体、何と言うことを""

すると、あの方はわたくしの瞳をじっとみつめ、それからこくんと首を縦に振りました。
灰靑色の瞳に、怒りは見えず穏やかな色をしています。
その表情が、はっきりと物語っていました。

"すべて解っている"
"きみがぼくを救ってくれたのだ"

と。

わたくしは、赦されたのです。

それからあの方は、黙ってわたくしを抱きしめてくれました。


わたくしたちは、ふたりで奥様のご遺体を始末しました。
お庭に深い深い穴を掘り、埋めてゆきます。
二人の間に言葉はなく、終始無言のままでした。

作業が終わると、わたくしたちは激しく性交しました。

女の(さが)ほど、恐ろしいものはございません。

大変なことをしてしまった興奮と、恐ろしい秘密を共有したことは、ふたりの気を昂らせました。
わたくしは、これまでに経験したことのない興奮を獲ていました。
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