溺愛音感
ストン、と地面に下ろされ、手を繋がれる。
(い、いま……)
茫然とするわたしに対し、公衆の面前でとんでもないことをした俺様はいたって普通だ。
「ハナ。歩きたくないなら担いで行くぞ?」
「…………」
思い切り首を横に振り、ギクシャクした足取りで歩き出す。
「ねえ、マキくん……」
「ん」
「どうして……キスするの?」
そんなことを訊いた自分に驚く。
実は、まだ熱が下がっていなかったのかもしれない。
「したいからだ」
一度外れたストッパーは、しばらく機能しそうにない。
どんどん深みにハマってしまうとわかっていながら、続けて訊ねてしまう。
「……どうして……したいの?」
「どうしてだと思う?」
(だから! 質問に質問で返さないでよ!)
「ハナはどうして嫌がらないんだ?」
「えっ!? そ、それは……」
じっとわたしを見つめる目には、からかいの色が見える。
むっとして睨み返せば、俺様王子様はきゅっと口角を上げて笑い、本当かどうかわからないことを口にした。
「ハナにキスしたくなるのは、ハナと同じ理由だ」