溺愛音感


流暢な日本語よりも、わたしのことを知っている様子に驚いた。


「えっと……」

「あ、そうだった。音羽に聞いたこと、忘れてたわ。憶えていないんだったわね? ええと、あの時のことも含めて、一度ゆっくりお話をしたいと思っていたんだけれど……あいにく、このあとクライアントとの打ち合わせが入っているの。改めて連絡させて。ハナちゃんの連絡先は音羽に聞いているから、わたしの連絡先を渡しておくわね?」

手渡された名刺を見下ろし、ハッとする。


『Megan Evans メーガン・エヴァンス』


欧州にいくつも拠点を持つ法律事務所に所属する弁護士で、

母の知り合いで、

わたしを知っている。


三つの証拠が、彼女こそわたしがずっとお礼を言いたかった人だと示していた。

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